自筆証書遺言
1 自筆証書遺言を作成するためには、 遺言者が、
②これに押印すること
が必要です。
さらに、
③自筆証書遺言の加除、 その他の変更は、 遺言者がその場所を指示し、 これを変更した旨を付記して署名し、かつその変更場所に押印しなければならないとされています。 (関連Q&A『Q6.自筆証書遺言はどのように訂正すれば良いですか?』)
このように、自筆証書遺言を作成するためには、原則として遺言者が遺言書のすべてを手書き(自書)する必要がありますが、 2019年1月13日以降に作成された自筆証書遺言については、財産目録を手書きせずにワードソフト等を用いて作成することも認められています。
もっとも、その場合には、財産目録のすべてのページに署名と押印をする必要があります。
2 自筆証書遺言の長所と短所
一般的な長所
①紙と筆記用具と印鑑さえあれば、いつでも簡単に作成できます。
②自宅でもどこでも作成できます。公証人役場に行く必要もありません。
③誰にも知られずに作成できます。立会証人も必要ありません。
④作成時の費用負担がほとんどありません。
一般的な短所
①財産の記入漏れや記入ミスなど、遺言書の形式に不備があると無効となるおそれがあります。
②作成後、相続人に遺言書を改ざんされたり、隠されたりするおそれがあります。
③家族に見られないように隠しておくと、相続人に見つけてもらえないおそれがあります。
④本人が作成したことや、本人の意思で作成されたものであることについての保証がなく、亡くなった後に遺言の有効性をめぐって争いになるおそれがあります。
⑤亡くなった後に相続人が家庭裁判所の検認手続をする必要があり、その分の相続人の手間がかかります。
3 自筆証書遺言と公正証書遺言との違い
公正証書遺言を作成するためには、自筆証書遺言と異なり、 ①公証人の面前で遺言の趣旨を口授する必要があり、その際には2名以上の証人の立会いが必要です。 どのような人が立会証人を務めることができるかについては民法に定められており 、遺言者の相続人にあたる人やその配偶者などは証人となることができません。
そのため、頼りにしている子などがいたとしても証人は他の人に頼まなければなりません。
この証人を知人などに頼んだ場合には、自分が公正証書遺言を作成したという事実や、遺言の内容が第三者に漏れてしまうおそれもあります。
また、遺言を公正証書という形で作成するためには 、②戸籍や登記といった書類を役所の窓口や郵送による取寄せで揃えた上で、公証人と打合せをする必要があります。
公証人との打合せは遺言者が公証人役場に赴いて行い、公証人役場へは何回か足を運ぶ必要があるのが通常です。全国に約300か所ある中 (http://www.koshonin.gr.jp/list) から行きやすい最寄りの公証人役場を探して行くことになりますが、遺言者の自宅のすぐ近くにあることは稀で、遺言者の負担は少なくありません。
(2)しっかりした遺言が作れるか
公正証書遺言は、
①法律に精通した公証人が作成する遺言書なので、法律が求める要件や形式不備のおそれがなく
②公証人だけでなく証人も同席して作成するので、本人の意思で作成されたと一般的に信頼され
③作成された遺言書の原本は公証人役場で保管されるため、偽造・変造・紛失などの心配がなく
④遺言者の死後、家庭裁判所で検認をする必要もありません
4 法務局における遺言書保管制度
2020年7月10日施行の「法務局における遺言書の保管等に関する法律」により、遺言書保管制度が誕生しました。
遺言書保管制度を利用するかどうかは遺言者が自由に決めることができます。
遺言書保管制度を利用するためには、 遺言者本人が「自筆証書遺言」の原本を法務局に持参して、保管を申請する必要があります。
遺言書保管の申請がされると、法務局は民法第968条に定める方式への適合性を外形的に確認し、原本を保管するとともに、遺言書を画像情報として保存します。
なお、遺言内容の有効性や妥当性については確認や助言等されるものではありません。
保管制度を利用した遺言書については、家庭裁判所による検認の手続を経る必要がなくなるという大きなメリットがあります。
自筆証書遺言をめぐる近時の制度変更について
1. 自筆証書遺言の方式の緩和
2. 自筆証書遺言の保管制度の創設
内容 | 改正法の概要 | 旧法の取扱い |
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①自筆証書遺言の方式の緩和 ※施行日:2019年1月13日 | 財産目録を別紙として添付する場合に限り、財産目録については、自書不要。 ※なお、別紙の全てのページに署名・押印をする必要がある | 本文、財産目録を含め、遺言者が全て自書する。また、作成日を記載の上、署名・押印する。 |
②自筆証書遺言の保管制度 ※施行日:2020年7月10日 | ・保管を希望する遺言者本人が法務局に自筆証書遺言(法務省令で定める様式で作成する必要。無封のみ、原本)を持参し、保管申請する(代理人による申請不可) ・法務局では、遺言者の本人確認の上、日付の誤りや署名・押印もれなどの方式不備が無いかの形式チェックを行う ・法務局で遺言書原本を保管し、遺言書の画像情報が法務局間で共有される ・相続開始後、利害関係人は、法務局に対し、①遺言書情報証明書等の交付、②遺言書の閲覧を請求できる。 ・保管制度を利用した場合は、検認手続は不要 | 規定なし(新設) なお、公正証書遺言では、従来より、 ①遺言者の本人確認 ②遺言内容の確認 ③遺言書原本の保管(公証人役場間での情報共有) ④相続後の利害関係人からの謄本交付請求 等をおこなっており、この点は、今後も変わらない |
- Q6.自筆証書遺言はどのように訂正すれば良いですか?
手書きで財産の分け方を詳しく書いた遺言書を作成しました。封をする前に見直しをしていると、銀行の口座番号や、各相続人に渡す額など、いくつか誤記がありました。どのように訂正すればよいでしょうか。
遺言書の訂正の方法は、民法968条2項によって定められており、具体的には、
①その場所を指示する
②これを変更した旨を付記して特にこれに署名する
③その変更の場所に印を押す
ということをしなければ、訂正の効力が生じないものとされています。つまり、「○行目」と変更の場所を示して(①)、「○字削除○字加入」などと変更したことを書いてその横に署名した上で(②)、訂正する場所に線などを引いて押印する(③)必要があります。
訂正の方法が複雑ですが、これを守らなければ訂正の効力は生じないものとされており、万一、訂正の方法を誤ってしまっていた場合には、訂正前の文言であると取り扱われることとなります。
そのため遺言書に書き間違いがあることを見つけた場合には、訂正を試みるより、最初から書き直した方がよいでしょう。