遺言作成するときに注意すること
1「遺言者であるご本人のお気持ち」が最も重要
遺言を作成する際に最も大事なことは「遺言者であるご本人のお気持ち」です。
遺言を作成するのはあくまでも遺言者であるご本人おひとりです。
相続開始後に相続人が色々なことを言うかもしれませんが、遺言を作成する方の気持ちが優先されるべきです。
なぜなら、生前、ご自身の財産をどのように使うのかは財産を築いたご本人の自由であり、同様に亡くなった後の財産をどうするのかもご本人の自由であるからです。
時折「財産を渡したい人がいるけれど、家族全員の承諾は得られないから遺言を作れない」と仰る方もおられます。
しかし「この人に多く財産を渡したい」というお気持ちがあるのであれば、そのお気持ちを一番大事にしてください。
気持ちがあっても形にならないと残された方が悲しむことになります。
2 遺言は相続人への感謝を表す手段
遺言はあくまで「財産の分け方」に関する法的書類です。
自らが死を迎えるにあたっての心境などを書き綴った遺書(いしょ)とは違います。
お世話になった相続人に多くの財産を渡す旨の遺言を書いた場合には感謝の気持ちを表すことができます。
一方で遺言に何も書いていない場合には、お世話になった相続人にも他の相続人と同じくらいしか財産を渡せないことがあります。
このような結果では、生前にお世話になった相続人は「私は感謝されていなかったのか。あんなに頑張ったのに、何もしていない人と同じなのか」と悲しいお気持ちになってしまうかもしれません。
お世話になった相続人を悲しいお気持ちにさせず相続人のお気持ちを「思いやり」、感謝の気持ちを伝える手段が遺言です。
感謝は思っているだけでは不十分です。
形にする必要があります。
3 遺留分への配慮:紛争リスクの軽減
お子様がいる場合に遺言者であるご本人のお気持ちとしてお世話になった知人に遺言で全ての財産を渡すことはできるのでしょうか。
そのような遺言も有効ではあります。
しかし、相続人のうちの一定の方(配偶者、お子様、親御様等)には「遺留分」という「最低限財産をもらえる権利」があります。
そのような相続人から遺留分を主張された場合には自分が渡したい人に全ての財産を渡すことはできなくなります。
もっとも、このことは裏を返せば「遺留分に相当する最低限の財産を除いては遺言を作成する方の自由な意思で財産を渡すことができる」ということを意味します。
遺留分を有する相続人に最低限の財産を残す遺言とすることで、ご自身がお世話になった方に多くの財産を渡すことができ、同時に紛争リスクを軽減することもできます。
相続人やお世話になった知人を紛争に巻き込まないという「思いやり」が良い遺言の作成につながるのです。
なお、相続人が兄弟姉妹や甥姪の場合には兄弟姉妹や甥姪に遺留分はありませんので、全ての財産を相続人以外の知人に渡したり、寄付してしまったりすることも可能です。
4 財産を分けた結果、後々揉めないか「相続の後」
遺言で財産を分けた結果、相続人の間で揉めてしまうこともあります。
長男が住む自宅と敷地の共有持分を、長男と仲の良くない二男に遺留分の確保の目的で相続させた場合はどうなるでしょうか。
二男は自宅と敷地から収益を得られないため、自宅と敷地を売却したいと思う可能性が十分にあります。
そうすると、長男と二男の間で自宅と敷地の分割について「長男は出て行って、自宅を解体し、更地を売却してその代金を分けるべきだ」といった紛争に発展することも考えられます。
相続は遺言者の方が亡くなった時の出来事です。
しかし、相続により相続人の方が受け取った財産は相続人の財産となり、その後も続いていくことになります。
そのため、遺言を作るにあたっては残した財産が「負の遺産」にならないような内容の遺言を作ることが重要です。
5 できるだけ相続人などに漏らさないこと
遺言を作るにあたっては誰に相談するのかもよく考えなければなりません。
(関連Q&A『Q16.遺言を作るにあたって知人に相談して良いですか?』)
また、遺言を作ったということ自体を知っただけでも、相続人の中には敏感に反応する人もいるかもしれません。
更に、遺言の内容までも相続人が知った場合には、財産をもらえるかどうかによって態度が変わってしまうかもしれません。
(関連Q&A『Q17.遺言のことを相続人らに知らせて良いですか?』)
- Q16.遺言を作るにあたって知人に相談して良いですか?
「遺言の内容」を決められないので、知人と相談してもよいでしょうか。
相談を受けた知人の方が秘密を漏らさないという確証があれば相談してもよいと思いますが、確証がない限り避けるべきでしょう。
(理由)
遺言を作ることは人生で1度しかないため、遺言の内容について悩まれ、他の方の経験談などを聞きたいというお気持ちになることも自然なことかと思います。しかし、相談を受けた方と相続人の距離が近い場合はどうでしょうか。
伝わりたくない相続人に遺言の内容が伝わってしまい「遺言を変更してくれないか」という話にならないでしょうか。古くから「人の口に戸は立てられない」と言われる通り、人は皆、噂話が好きなものです。
特定の相続人に知られてしまうと困るようなことはあまり知人には相談しないほうが良いでしょう。
- Q17.遺言のことを相続人らに知らせて良いですか?
生前に「遺言を作ったこと」や「遺言の内容」を相続人や相続人ではない親族に伝えるべきでしょうか。
「遺言を作ったこと」については、「特定の相続人」にのみ伝えることをお勧めします。
「遺言の内容」は伝えるべきではないと思います。
伝えるとしても「特定の相続人のみ」にすべきです。(理由)
遺言を作った方が「相続人全員」に「遺言を作ったこと」を話した結果、遺言を作った方の入院中などに、遺言を探した相続人によって遺言を捨てられたりしてしまう可能性もあります。また、相続人のうち1名が遺言を作った方から「遺言の内容」を伝えられたところ、その後、遺言の変更をしたような場合にはその相続人は変更前と変更後の財産の受取の割合の違いについて不満に思い、相続開始後にトラブルになる可能性があります(例:別の兄弟が自分に不利な遺言を作成させたのではないかと疑うなど。)。
そのため、遺言の存在が判明しないという事態を防ぐために、「特定の相続人」には「遺言を作ったこと」は伝えたとしても、「遺言の内容」はなるべく話さないほうが良いと思います。
また、相続人ではない親族にも「遺言の内容」は言わない方がよいでしょう。
相続人ではない親族から相続人に伝わる可能性があります。
- Q18.相談するべき相手は誰ですか?
「遺言を作ったこと」や「遺言の内容」について相続人、相続人以外の親族や知人に漏らすことの危うさもわかりました。
では相続人以外の親族や、知人に相談できないのであれば、私一人で決めるということでしょうか。そんな自信はありません。どうしたらよいのでしょうか。是非、信頼できる第三者(専門家など守秘義務を守れる方)に相談ください。
(理由)
遺言作成の豊富な実績がある専門家、専門の会社であれば、ご相談の上でご本人のお気持ちを最大限に反映してご本人にとって最も望ましい遺言作成を支援することができます。
また、相談に際し守秘義務を守ることはプロとして当然の義務です。朝日信託は、これまで、1万3000人以上のお客様の遺言の作成を支援して、作成した遺言も保管している実績がありますので、様々なお悩みにお答えすることができます。