遺贈とは
遺贈という字を見ていただければ分かりやすいですが、遺贈とは、「遺」言によって、自分の財産を他の人に「贈」る(贈与する)ことをいいます。
遺言を書いていなかった場合、相続人が話合いを行いますが(詳しくは 「遺産分割協議」をご覧ください)、話合いがまとまらない場合には、最終的に、家庭裁判所で調停・審判をしてもらわなければ、相続人は自由に遺産を使うことができません。
遺産分割協議は、何年もの時間がかかったりするものでもありますが、何より遺産の分割方法を巡り、残された相続人の関係性が悪化してしまうことも多く、その最大の原因は「亡くなった方の気持ちが分からない」ことに尽きます。
ご自分の財産をどのように遺贈するのか(又はご家族に相続させるのか)遺言を作成することにより、明確に書面に残しておくことが何よりも重要になります。
☆遺贈は、対象とする財産の定め方によって2種類あり、それによって手続や税金などにも違いがでてきます。
特定遺贈は、受遺者が特定された積極財産だけを承継するのに対し、包括遺贈は、受遺者が積極財産(債権)だけでなく、消極財産(債務)を承継するという点に違いがあります。
受遺者が相続人ではない場合には、特定遺贈か包括遺贈かで相続税の債務控除ができるか否かや不動産取得税等も異なりますので注意が必要です。
☆遺贈による財産の承継の他にも相続による財産の承継があり、それによって手続や税金などにも違いがでてきます。
両者の違いについては、詳しくは「遺贈と相続の違い」をご覧ください。
(関連Q&A『Q10.こんな遺贈ができますか?』)
- 遺贈の種類(特定遺贈と包括遺贈)
1 特定遺贈
特定遺贈とは、特定の財産を対象とする遺贈のことをいいます。
特定遺贈は、遺言を書いた方が死亡することによってその効力を生じ、特定の財産の所有権が受遺者(下記の記載例でいうと甲のことをいいます)に移転します。(遺言での記載例)
・「遺言者は、下記の建物を甲に遺贈する」2 包括遺贈
包括遺贈とは、遺産の渡し方を全部またはその割合で指定するにとどまり、 目的物を特定しないでする遺贈のことをいいます。
包括遺贈を受けた者は相続人と同一の権利義務を有するため、遺言者の一身専属権を除いた全ての財産上の権利義務を指定の割合で承継します。
そのため、他の相続人や他の包括受遺者があるときは、 それらの者との遺産共有関係が生じ、遺産分割(詳しくは「遺産分割協議」をご覧ください)をしなければその共有関係を解消することができず、遺産を自由に利用・処分することができません。(遺言での記載例)
・「遺言者は、遺言者が相続開始時に有する財産の2分の1を甲に遺贈する」
- 遺贈と相続の違い
1 相続と遺贈の違い
⑴ 相続とは
人が亡くなると、亡くなった人が生前に有していた財産や債務は、その人と一定の近い関係にある親族(「法定相続人」といいます)に移転します。
このことを「相続」と言います。
遺言で法定相続人に財産を移転させるときは「~に相続させる」と記載します。⑵ 遺贈とは
一方、「遺贈」とは遺言によって財産を贈与することをいいます(遺言では、「~に遺贈する」と記載します)。
贈与する相手(「受遺者」といいます)の範囲は特に制限がありません。
そのため、法定相続人に対しても、また、法定相続人ではない人に対しても遺贈することはできます。2 相続人に対する「相続させる」遺言と「遺贈する」遺言の違い
遺言では相続人に対して「相続させる」ではなく「遺贈する」と書くこともできますが、下記の表の違いから相続人に対しては「遺贈する」ではなく「相続させる」と書いた方が良いケースが多いと考えられます。
「相続させる」遺言の場合 「遺贈する」遺言の場合 不動産の登記手続 相続人の単独申請が可能 受遺者が、遺言執行者又は相続人全員と共同で申請が必要 登記なくして自分に権利があることを相続人以外の第三者に主張することができるか否か 法定相続分を超えない部分については、登記なくして第三者に対して権利主張ができる。 法定相続分にかかわらず、相続登記をしなければ第三者に対して権利主張ができない。 登記申請時の登録免許税 固定資産税評価額の0.4% ・受遺者が相続人の場合→固定資産税評価額の0.4%
・受遺者が相続人以外の場合→固定資産税評価額の2%農地法の許可の要否 許可不要 ・包括遺贈の場合→許可不要
・相続人に対する特定遺贈の場合
→許可不要
・相続人以外の者に対する特定遺贈の場合
→許可必要借地権・借家権が遺産に含まれる場合における賃貸人の承諾の要否 不要 必要 3 その他の違い
⑴ 法人と遺贈
法人には相続が観念できないため相続人とはなり得ませんが、受遺者にはなることはできます。⑵ 遺留分
包括受遺者は相続人と異なり遺留分を有しません。
遺留分は相続人固有の権利と解釈されているからです。⑶ 代襲相続(関連Q&A『Q12.子が死亡している場合はどうなりますか?』)
包括受遺者は相続人と異なり代襲相続は発生しません。
遺言の効力発生時に受遺者が既に死亡しているような場合には遺贈に関する遺言条項は失効します。⑷ 保険金受取人
保険金受取人として 「相続人」 という指定がなされている場合でも、包括受遺者はこの「相続人」 には含まれません。
- Q10.こんな遺贈ができますか?
後継ぎ遺贈
子供がいないため、全財産を妻に相続させる内容の遺言にしようと考えていますが、私が現在住んでいる場所は、先祖代々から引き継いできた土地であるため、最終的には甥に譲りたいと考えています。
そこで、「私の財産は全て妻の○○に相続させる。ただし、妻が死亡した後、○○の土地建物(自宅)については、甥の○○が取得するものとする。」
と書いた場合、このような遺言は有効なのでしょうか。もし、遺言ではこのような内容は実現できないのであれば、他に方法はないでしょうか。
ご指摘のような遺贈をいわゆる後継ぎ遺贈といいます。
遺言による場合、財産の受取人(妻)はその財産を自分のものとして取得することになるため、その財産はその受取人(妻)のものとなり、自由に処分できるものとなります。
そのため、その方が亡くなった後のことについて遺言者としてご相談者が決めることはできません。もし、ご相談のような想いを実現しようとするのであれば「信託契約」の利用が考えられます。
株式会社朝日信託においては、ご相談のような想いを実現するための信託契約にも対応しておりますので、ご不明点などにつきましてはお気軽にご相談ください。
お電話またはご来社の上で面談にてご相談いただけます。負担付き遺贈
自宅の建物は甥に遺贈したいのですが、私の死後は甥から高齢の妻に対して毎月一定の生活費を支払うことを条件としたいです。
このような場合、どのような遺言を書けばよいでしょうか。
受遺者(ここでいう甥)に対して、一定の義務を負担させる遺贈を「負担付遺贈」といいます。
具体的には、「遺言者は、甥である甲に対し、A建物を遺贈するかわりに、甲は遺言者の妻である乙に対し、その生活費として、毎月5万円を支払う。」などと記載します。負担付遺贈の場合は受遺者には遺贈を承認するか放棄するかの選択権があるため、甥である甲は負担をすることを拒みたいときには遺贈を放棄することができます。
また、受遺者の不利益を回避するため、受遺者は遺贈の目的の価額を超えない限度内においてのみ負担した義務を履行する責任を負うとされています。なお、負担付遺贈によって受遺者が負担した義務を履行しない場合には、 相続人(ここでいう妻)は 相当の期間を定めて履行の催告を行い、 それでも履行がない場合はその負担付遺贈にかかる遺言の取消しを家庭裁判所に対して請求することができます。
受遺者が先に死亡していた場合
私は独身で子もおらず、親や兄弟姉妹も全員亡くなっています。
遺言を書いて、長年にわたり近所に住み、面倒を看てくれた知人Aに全財産を譲りたいと考えています。しかし、Aも高齢なので、Aが私よりも先に亡くなった場合、一緒に面倒を看てくれたAの長女Bに全財産を譲りたいと思います。このような遺言を作成することはできるのでしょうか。
できます。受遺者がAのみであれば、一般的には以下のような遺言を書きます。
「遺言者は、遺言者が相続開始時に有する一切の財産を、Aに包括して遺贈する」
しかし、この遺言の場合、Aが遺言者よりも先(又は同時)に亡くなったときのことが何も書かれていないため、Aの相続人であるBが遺言者の財産を譲り受けることができない可能性があります。
そのため、①第一希望はAに、②(Aが既に亡くなっていた場合)第二希望はAの子であるBに財産を渡したいという場合には、Aが既に亡くなって場合のことについて、予備的に遺言書に明記しておく必要があります(これを「予備的遺言」といいます)。予備的遺言は「遺言者は、万一、Aがこの遺言の効力が生じる以前に亡くなった場合は、前条記載の遺言者が有する財産全部を、Aの子であるBに包括して遺贈する」のように書きます。
予備的遺言を書いておけば、もしAが遺言者よりも先に亡くなった場合であっても、Aに渡すはずだった遺言者の全財産をBに渡すことができるようになります。